女性にしては長身の少女。メリエムと出会った日曜日の午後、無遠慮に声をかけてきて一方的に話し、【唐草ハウス】へと姿を消した少女だ。
だがどうやら先ほどの言葉は、涼木の声ではなかったらしい。
向かい合う二人が更に口を開く。
「金本くんに目をつけるなんて、なかなか考えましたこと」
「いっそのこと主将なんか辞めて、監督にでもなったらいかがかしら?」
二人の言葉に、涼木はガリガリと短髪を掻く。
「そういったコトはさぁ、本人に直接言ったらどう?」
「あら? 言ってますのよ。私の彼氏がね」
首を横にずらし、肩にかかるフンワリとした髪に口を埋めて、一人が笑う。
「そうそう。なのにあの方、ちっとも耳を貸そうとなさらないのですもの」
「強情とでも申しますか……… まったく周囲への迷惑というモノを考えていらっしゃらないようで……」
「ホント、あのような方のお相手をなされて、あなたもさぞ大変でしょうねぇ」
「気ぃ使ってくれるのはありがたいけどさぁ」
ため息混じりにそう答え、ひょいっと上目使いで肩を竦める。
「結局のところ、何が言いたいワケ?」
「あら? お気に触りました?」
悪びれる様子もなく冷笑する。
「言ったじゃありませんか。蔦くん、主将なんか辞めて監督でもなさればいいのにって」
「あ そう」
「お聞き入れくださると、ありがたいのですけど」
「私に言われてもねぇ」
「あなたからでしたら、蔦くんも考えてくださるのでは?」
「どうだろうねぇ」
顎に指を当て考える素振りを見せ、やがて涼木は口元をあげた。
「ま 覚えていたら、言ってみるよ」
その言葉に、二人の少女は片手で口を被い、クスクスと笑う。そうして、ごきげんよう と澄ました挨拶を残して、その場から立ち去った。
その背中を見つめながら涼木はまた頭を掻き、突然クルリと振り向いた。
―――― 目が、合った。
「あ」
「………あ」
お互い何を言っていいのかわからず、しばらくあんぐりと口を開ける。
先に我を取り戻したのは涼木。
「アンタ………」
今さら無視もできず、小さく首を動かす。
「今の、見てたの?」
「まぁ………」
涼木は大きく息を吐き、額に手を当てた。
「そうなんだぁ〜」
どう見ても親密な関係には見えなかった。むしろ対立、いや、一方的にイビられているように見えた。
巻き込まれると、厄介そうだな。
「別に、誰にもバラさないわよ」
「そうしてくれるとありがたい」
そう答え、すばやく付け足す。
「あ、別に、今あったことを他人に知られるのが嫌だとかって言うんじゃないのよ」
じゃあ 何だ?
「ただ……… コウに知られると、ちょっと困るかなって」
「コウ?」
「康煕。蔦康煕」
その名前、先ほどの少女たちの口からも聞いた。
確か、聡を再三バスケ部に誘っていた男子生徒。バスケ部の主将だ。
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